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2006 / 04 / 28 ( Fri ) 隆志が亡くなる前、今日子たち4人が家族でハワイに行ったことがある。そのとき、春江は留守番をしていた。
凛や幸治がホテルの目の前に広がるワイキキのビーチから見る夕日がどんなに美しいか、ことある毎に何度も何度も話していたので、あの世に旅立つ前に1度は見たいと思っていた。エベレストは肉体を持っていてはまず登れない山であるし、これから別れを告げるこの世を一番高い山から見ておきたかった。 ハワイに着いた時には太陽がダイヤモンドヘッドから顔を出そうとしている時だった。散歩を楽しんでいるカップルが2、3組いるだけで、あたりは厳かな雰囲気だ。鼻に衝く潮の匂いは久しぶりだ。 もう何十年も海辺に来ていない。風がひんやりして心地よい。肉体を持っていた時と何ら変らない。しいて違いを言えば、意識が広くなった感じだけだ。 孫達が言っていた美しい夕日を見たかったが、ちょっと時間があり過ぎる。清々しいハワイのご来光を見ることができたから、またちょっと時間をおいて来よう。来るのはとても簡単だから。 上空からグルッとハワイ諸島を見渡して、 気持ちをエベレストに切り換えた。 エベレストの頂上に意識を集中させると、そこはもうエベレストの頂上だった。 幸い雲が無く、暗闇の中に満月に照らし出された峰峯が鮫の歯のように幾重にも視界が続くまでズーッと広がっている。 こんな光景はきっと誰も目にしたことが無いに違いない。エベレストの登頂は決まって昼間だから。気温は何度だろう。寒さをあまり感じない。風が無いかもしれない。 エベレストからは四方すべての地平線が見渡せ、平伏すように山並みが続いていると思っていた。ところが、8千メートル級の山が肩を並べるようにそびえ先の視界を遮っている。来てみなければ分からない世界だ。 |
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2006 / 04 / 27 ( Thu ) 今日子の顔をジーッと眺めていたら、孫達のことが気になった。二人はどうしているだろう。
春江には3人の孫がいる。今日子に二人、娘の敏子に一人。 凛はどうしているだろう。同い年の夫拓哉と一人娘の雅と郊外のマンションに暮らしている。 凛に会いたいと思った瞬間、もう凛と拓哉が寝ている部屋の上に来ていた。移動が非常に快適だ。思った瞬間に移動している。今までの自由の利かなかった身体がうそみたいに軽い。これなら何処へでも行けそうだ。 『あなた方二人は仲がいいから大丈夫。これからも仲良く暮らしてね。あの世に行ったら、災難に遭わないようにズーッと見守っているから。』 凛の顔を見つめながらつぶやいた。 確か雅の部屋は2階だったはずだ。寝室を出ようとドアのノブに手を掛けたが、ノブがするりとすり抜けてしまう。 『なぜ、ノブがつかめないの、部屋から出られないじゃないの』 とぶつぶつ言いながら。なんどもドアのノブを握ろうとした。 『私はもう生身の人間じゃないんだわ』 恐る恐るドアを押してみた。手はドアを突き抜けた。 『何だ、もうどこでも突き抜けていけるんだ。』 と思うと、ドアをソーッと突き抜けてみた。ドアが顔に当たっても痛くない。 『慣れれば、この方が面倒が無くていいわ。』 と一人微笑んだ。 2階へ上がり、今度はドアのノブに手を掛けず、ドアを通り抜けて雅の部屋に入った。 曾孫の雅は小学校の5年生のわりには幼顔である。それがまた可愛いい。 可愛さのあまり頬ずりした。弾力のあるきめの細かい肌の感触が伝わってきた。 『困ったことがあったら、いつでも呼んでちょうだいね、どのくらい役に立てるか分からないけれど、頑張ってみるから。』 膵臓ガンで入院していた時学んだ死後の世界だったら、多少の知識もあるが、この先どのようになるか多少不安があった。 『さあて、これから凛の弟の幸治のところと、娘の敏子そして孫の明美、膵臓ガンで世話になった理学療法士の志村、医師の谷村に会いに行こう。それに、ハワイとエベレスト。とっても、どこに住んでいるか分からない志村や谷村に会えるだろうか?けれど、凛に会いにきた時と同じように、会いたいと念じさえすれば、何とかなるだろう。』 と思った。 |


